そう…。此処が私の居場所…。







視界、遮断 side k








昨日出会った女性が言った言葉を聞いた途端、物凄い光が視界を覆った。
目を開いている事が出来ず瞼を閉じる。
再び目を開いたときに見えたのは、引き寄せられるように手を伸ばしたあの大樹。

帰ってこれたのか…?

私は辺りを見回した。
そして、見えるのは気になる一本の道。
私は迷う事無くそちらへと歩みを進めた。







日は高く通りは人々が溢れ活気に満ちていた。
何気なく今通ってきた道を振り返る。



    しかし、其処に道などありはしなかった…。



目を見開き私は辺りを見回す。
しかし何処にも道などありはしない。
何故…。
私の頭の中にはその言葉しかなった。







向こうに行ってからどれだけの時間が流れているのかを確かめるべく、私は城へと急いだ。
執務室へと飛び込む。
其処には竹簡へと向かう丞相の姿が…。

「おや、姜維。お昼はもう済ませたのですか?先ほど出て行ったばかりでしょう」

丞相の言葉に私は目を見開いた。
先ほど…?
私が向こうに行っている間に此方では時間が流れていなかったのか?
此方を見ている丞相に構う事無く私は再び走り出した。
目指すはあの大樹。







先ほど雑踏へと出てきた辺りへと歩みを進める。
やはり其処には道なんてありはしなかった。
何故…。
此方に戻ってから私の頭の中はこの言葉ばかりだ。







昨日、あちらの服を着れば他の人にも見えるのだと言う事がわかった。
それでも彼女が言うデートとやらをし、買い物をして何事も無く一日を終えた。
そして今日も彼女と共に過ごしていた…はず…。
いや、彼女と過ごしていた。
私は本を読んでいて、彼女が傍にいて他愛もない事で笑っていた。
そう。彼女は私の傍に居たんだ。


    あの女性が現れ、光が全てを覆うまでは。


それは夢でも幻でもないはず。
なのに何故道が無い?
あの大樹へと続く道が…。
彼女にはもう逢う事が出来ない?
そう思うと心にぽっかりと穴が空いたような気がした。







とぼとぼと城への道を歩く。
そして、惰性のように辿り着いた執務室。
晴れない気分のまま執務をこなす事など出来そうにも無かった。
それでも私は執務室の扉を開く。
部屋へと入ると丞相の驚いた顔が見えた。

「姜維…?」
「…何か?」

驚き声を掛けてくる丞相に私は首を傾げる。

「何故泣いているのです?」
「え?」

丞相の言葉に私は頬へと手を伸ばした。
そして触れる温かな水。
自分が泣いている事に今気付いた。

「何かあったのですか?」
「何か…」

呆然と丞相の言葉に反応する。

「あったといえば、ありました…」
「姜維?」
「でも、無かったといえば無かったのかも知れません…」

自分の胸元を掴む。
痛みを訴える心。
掴んだのは己の服。
それは此処の服であちらの服ではない。
今日はあちらの服を着ていたはずなのに…。
今着ているのはいつもの私の服。



    やはり、彼女と逢ったのは夢や幻なのだろうか…。





素材 : clef 様