彼はきっと帰ってしまう…。そう何かが私に告げていた。
予感 side h
彼が此方…ゲームの世界を飛び出し現実世界に来てから早一ヶ月。
初めは慣れない事も多く警戒もされていたけど、今では普通に接してくれるようになったと思う。
一人だった我が家に言葉を交すことの出来る人が居る。
それがこんなに嬉しい事だったなんて。
家族が居なくなってからこんなに笑顔だった日々があるだろうかと言うくらい私は毎日笑顔で過ごす。
そんな些細な事が本当に幸せ。
でも、きっとこの幸せは長く続かない。
そんな不安にも似た予感が常に心の片隅にあった…。
「ねぇ、今日はどうする?」
此処にも私にも慣れてきた彼にタメ口で話すようになっていた。
「どうと聞かれても」
「まぁ、そうだね〜。じゃぁ私、買い物に行きたい!!」
私はソファーに座りお茶を飲んでいた彼に手を上げながら告げる。
そんな子供っぽい私の仕草に彼は少し笑い頷いた。
私以外に見えない彼。
でも…。
私にはちゃんと見えるの。
私と言葉を交してくれるの。
私の作ったご飯食べてくれるの。
そして…そして、私に笑いかけてくれるの。
不思議な彼。
この家に居る間はちゃんとご飯を食べるし、お風呂も入る。
睡眠だって取るんだから。
でも、私以外には見えない…。
それでも彼は私の前にちゃんと存在しているの。
彼と一緒に住むようになってから出かけるのは久しぶり。
一回目は初めて会った日に彼が飛びたした時。
二回目はこの世界を説明するために彼が来てから三日目に出た。
三回目は私が飼う犬の散歩について来たのが彼が来てから十日目。
四回目は夜遅くにコンビニに行った時に護衛と言って付いてきてくれたのが半月前だった。
五回目は姜維好きの彼女が来て姜維をべた褒めし、
彼が耐えれなくて飛びだしたのを捜しに行った十日前。
そして、六回目になるのが今日の買い物。
彼は寝るとき以外いつも初めて会った時の衣装を着ていた。
(勿論、洗濯はしてるわよ。乾燥まで全自動でしてくれる優れた洗濯機があるからね。
夜、洗濯機に入れとけば、朝には乾いてるんだから)
私も特に気にしてなかったんだけど…。
昨日、無双&姜維好きの彼女が言ってた。
「絶対姜維ってカジュアルな服も似合うって!!
いや、カジュアルスーツもいけるか…?馬超なら絶対ホストになるわね!
あ〜、現代の服着せてみたい!!!!」
握りこぶしを作って力説してくれた…。
私はそれを聞いて彼に服を買ってあげようと思ったんだ。
思い立ったが吉日とばかりに私は男性用の服を一式揃えた。
今日はそれを着てもらって外出よ!!
がさがさと音を鳴らし私は買って来た服の入った袋を彼の前まで運ぶ。
「何?それ…」
彼が首を傾げ聞いてくる。
じゃ〜んと効果音を自分で言いながら袋の中から取り出したのはカジュアルな服。
まぁディスプレイ用としてコーディネートされてるのを見て、
あ、これなら。と思って買った服なんだけど…。
「これ着てね」
そう言って私は彼に服を渡した。
驚く彼にもう一度着てみてねと言い私も出かける用意をするため部屋へと行く。
さぁ、彼はどんな仕上がりになるのかな?楽しみだわ。
何故か何時もより衣装選びにも化粧にも髪のセットにも気合いが入る。
それはきっと彼の着る服に合わせようと無意識に考えてたんだろう。
少し時間は掛かってしまったが満足いく仕上がりに私は鏡に映る自分に微笑みかけた。
「よし!何時もより可愛いわよ〜ちゃん」
自分で言っててちょっと恥かしい…。
でも、浮かれる気持ちを押さえる事は出来なかった。
軽い足取りで彼が居るであろうリビングへと歩みを進める。
リビングへと足を踏み入れ私は固まった。
ソファーに座り足を組んで、何故か此方の文字も読める彼に買ってあげた文庫本を広げている。
その姿に私は不覚にも見惚れてしまったんだ…。
自分を見る視線に気付いたのだろう。
彼が此方を向く。
少し目を見開き、そして少し微笑を乗せ声を掛けてくる。
「何か、何時もと違うね。よく似合う」
何故か無性に恥かしくなり私は頬を染め俯いた。
実は天然タラシなんじゃないのだろうか、この人は…。
そんな考えが頭を巡る。
「どうしたの?出かけないの?」
俯いた私に彼が心配そうな声音で聞いてきた。
そうだった。お出かけ…。
「出かけるよ!さぁ、デートしよう」
私は彼の腕に己の腕を絡ませる。
でーと?と首を傾げる彼に秘密と笑い家を後にした。
素材 : clef 様