「ここね…。
此処に私の可愛い…可愛いあの子が居るのね」
母、現る
姜維とが婚礼の儀を挙げるまで後少し。
諸葛亮は先日と話したことについて思い出していた。
「そう言えば。俺がやった腕輪はどうした?」
蜀に来た頃は常に身に付けていた腕輪を最近していない事を疑問に思ったようだ。
は腕輪を付けていた手首を擦りながら寂しそうに笑った。
「大切な方にお送りしたの。私だと思って大切にしてくださる方に…」
「そうか…」
悲しそうに呟く妹に諸葛亮の気も沈む。
聞くと姜維との婚儀が決まってからは姜維の母、芙蓉へと文を送ったらしい。
は姜維の元に来てから芙蓉にも此方に来るように言っていた。
しかし、芙蓉は夫との思い出のある屋敷から離れようとはせず、
いつも二人の無事を祈っているとだけ書かれた文を返していた。
今回もそうであろうと思い、は大切にしていた腕輪を文に添え送ったのだった。
「是非此方に来て頂きたかったのに…」
はポツリと呟いた。
諸葛亮は悲しそうに言うの頭を撫ぜる。
「きっと祝ってくださる」
「そうだといいのだけど…」
少し笑みを浮かべたに諸葛亮は頷く。
「良い方なのだろう?」
「えぇ」
「なら大丈夫だ」
「…そうよね」
ふわりと笑うに諸葛亮も笑った。
に送った腕輪が他人に渡ってしまったのは残念だが、妹の気持ちも大切にしてやりたい。
諸葛亮がそんな事を思ってると、執務室の扉が叩かれた。
「はい?」
「失礼致します。諸葛亮様にお会いしたいという女性がいらっしゃってますが…」
「私に?」
入ってきたのは女官。
「はい。いかが致しましょうか?」
「何方ですか?」
「それが…名前を名乗られなくて…。此方を見せれば会って貰える筈だと…」
女官がそう言い諸葛亮へと包みを渡す。
受け取った包みをそっと開く。
其処には自分がへと送った腕輪。
これは…。と諸葛亮は目を見開く。
が大切な人、姜維の母へと送ったはずの腕輪。
これを持っていたということは会いたいと言っている人物は姜維の母ということになる。
諸葛亮は女官に急ぎその人物を此処に通すようにと伝えた。
「初めてお目にかかります。伯約の母で芙蓉と申します。息子がお世話になりまして…」
「これはご丁寧に…。私はの兄で諸葛亮、字を孔明と申します。
今までがお世話になったそうで…」
芙蓉は執務室に通されるなり諸葛亮へと挨拶をする。
諸葛亮も挨拶をし、芙蓉に席を勧める。
向かいの席に芙蓉が座った事を確認し、諸葛亮は尋ねた。
「芙蓉殿、今日は一体…」
「はい。私の可愛いあの子に会いに…」
ふわりと笑う芙蓉。
諸葛亮は私の可愛いと芙蓉が言った事で姜維のことだと思う。
「その前に、是非諸葛亮様にご挨拶をと…」
「そうでしたか。ご丁寧にありがとうございます。では、姜維の屋敷へと案内致しましょう」
そう言い諸葛亮は腰を上げ芙蓉を促し執務室を後にした。
「此処が姜維とが共に住んでいる屋敷です」
いつものように暴走俺様お兄様になりそうになるのを必死に押さえ諸葛亮が芙蓉に言う。
「そうですか…。此処にあの子が…」
きゅっと胸の前で手を組んだ芙蓉に余程姜維に会いたかったのか…と諸葛亮は感じた。
早速会わせて差し上げようと諸葛亮は屋敷の玄関を潜る。
そして、屋敷内に聞こえるように声を上げた。
「姜維、いますか?」
「はい!」
姜維の声とぱたぱたという足音が聞こえる。
「丞相!?どうなされたのですか?」
姜維が驚きに声を上げた。
諸葛亮の後ろに居る芙蓉には気づいていないらしい。
そして、姜維の声にも顔を出した。
「兄様?」
「今日はお客様をお連れしましたよ」
諸葛亮がすっと横にずれる。
そして、姜維との前に芙蓉の姿が現れた。
「母上!?」
「小母様!?」
姜維とが驚きの声を上げる。
芙蓉は瞳に涙を浮かべながら微笑んだ。
「あぁ、やっと会えたわ…。私の可愛い…」
震える声で話し、芙蓉が足を進めた。
諸葛亮は姜維と会えて余程嬉しいのだろうと、うんうん感動的ですね…。と頷く。
が、しかし。
芙蓉は姜維を邪魔だとばかりに横に突き飛ばし、後ろにいたへと抱きついた。
「あぁ…やっと会えたわ…。私の可愛い可愛いちゃん!!!」
へと抱き付き芙蓉は感動の涙を零す。
抱きつかれたも芙蓉の背へと腕を回した。
「私もお会いしたかったです。小母様…」
「まぁ、小母様だなんて他人行儀な。伯約と一緒になるんですもの。母と呼んで頂戴」
「…お義母様…」
に母と呼ばれ芙蓉はぱぁっと周りに花を咲かせる。
「嬉しいわ、ちゃん!!私は幸せよ!!
あぁ、伯約のところにちゃんが来てくれるなんて…。もう本当に嬉しいわ!!」
花を撒き散らし芙蓉は嬉しそうに声を上げた。
「…。姜維…?」
「何でしょう…。丞相…」
諸葛亮は花を撒き散らす芙蓉を見てからギギギと音が鳴りそうな動きで姜維をみた。
「貴方のお母上ですよね…?」
「そうです」
「本当のお母上ですよね…?」
「そうです」
「…いつもああなのですか…?」
「…そうです」
「……貴方よりなんですか…?」
「……そうです」
諸葛亮の問に姜維はげんなりとし答える。
はぁ…と姜維は一つ大きな溜息を吐いた。
「母はいつもああです。私より。何より。
きっとが私と一緒になることを誰より望み誰より喜んでいるのは母でしょう」
「…そうなのですか」
姜維の説明に諸葛亮は再び芙蓉を見た。
何処から取り出したのかへの土産だと衣服やら簪やら何やら大量に出している。
そして、芙蓉は一通りとの再開を堪能したのか漸く姜維の方を向いた。
「よくやったわ。我が愚息!」
満面の笑みでそう言い再びの方を向く。
諸葛亮は面食らい再び姜維の方を見た。
「………いつものことですから…」
「…そうですか…。貴方も大変ですね…」
「…慣れました」
ふっと遠くを見遣る姜維。
諸葛亮は姜維へと同情の眼差しを送る。
…のも一瞬の事。
いつもの暴走俺様お兄様になり姜維の肩へと手を置く。
「素晴らしいお母上だな。何かと気が合いそうだ」
「…そうでしょうね…」
今までの諸葛亮の行動を思い出し姜維は頷いた。
一番な所はそっくりな二人だ。
これからまた騒がしい日々が続くのか…と姜維は重く長い溜息を吐いた。
姜維の母の名 芙蓉-ふよう- は適当です。
素材 : NOION 様